花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)

花粉症は毎年、多くの人を悩ましています。都市部で年々増加傾向にあり、通年性アレルギー性鼻炎とともに大きな社会問題とも言えます。戦後に多く植林されたスギの手入れがおろそかになり、花粉飛散量が増えています。スギ花粉症の発症者の年齢分布では30歳未満では通年性アレルギー性鼻炎と拮抗しているものの、スギ花粉症より通年性のものが若干多い傾向があります。ところが、30歳以上70歳未満までは、スギ花粉症(スギ以外を除く)単独で、通年性アレルギー性鼻炎を上回る状況です。昨年、2015年12月に「鼻アレルギー診療ガイドライン−通年性鼻炎と花粉症−」(鼻アレルギー診療ガイドライン)が改訂されました。この度の改訂されたガイドラインを中心に、筆者の経験も踏まえてご紹介していきたいと思います。



I.鼻炎の分類

鼻炎と言っても、その中には以下のように複数のものが含まれています。

図1 インフルエンザウィルスの構造

くしゃみ、鼻漏、鼻閉などの症状が主体の複合型(鼻過敏症)は、アレルギー性と非アレルギー性に分かれ、アレルギー性では通年性と季節性に分類できます。通年性の多くは室内塵(ハウスダスト)、ダニが原因で、季節性のほとんどがいわゆる花粉症です。

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II.アレルギー性鼻炎発症のメカニズム

図1 インフルエンザウィルスの構造

花粉などの吸入抗原が吸い込まれることで、まずは鼻粘膜表層に存在する粘膜型マスト細胞から突起しているIgE抗体と結合します。その結果、マスト細胞から、ヒスタミンやロイコトリエン、プロスタグランジンD2と言った化学伝達物質が放出されます。これらの化学伝達物質は、まずは知覚神経や血管に作用して、くしゃみ、水様性鼻汁、鼻閉と言った生体反応を引き起こします。これは即時相反応と呼ばれています。次にマスト細胞はトロンボキサンA2などの炎症細胞動員因子も放出し、その結果、活性型好酸球を中心とする炎症性細胞が浸潤してきて、ロイコトリエンなどの化学伝達物質が産生されて鼻粘膜の腫脹を来します。その結果、鼻閉症状が引き起こされます。この反応は花粉(抗原)曝露後、6〜10時間経過して起こるため、遅発相反応と呼ばれています。花粉の時期などは継続的に抗原に曝露されているわけで、体内では即時相反応と遅発相反応が絡み合って同時に起きていると言えるでしょう。

化学伝達物質であるヒスタミン、ロイコトリエンという言葉は、治療のところでも触れますので、覚えておくと判りやすいでしょう。

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III.アレルギー性鼻炎の診断

問診を行いつつ、アレルギー性鼻炎以外の発症時期、症状の特徴を捉えて、鑑別していきます。

図1 インフルエンザウィルスの構造

検査としては、一般的に皮膚テストや採血による血清特異的IgE抗体検査が行われています。これらのテストで陽性となっても、発症抗原でない場合もあり、総合的に診断する必要があります。当院では先ほどの抗原と結合する抗体であるIgEが、アレルギーのある人では特異的に増加していることを利用した検査(RAST:血清特異的IgE抗体検査)を行っています。抗ヒスタミン薬をすでに服薬していても皮膚テストと違い、検査は可能です。ただし、陽性抗原が100% 発症抗原と言えないこともあり、検査にかかる費用をも考慮して、発症時期や抗原曝露状況を参考に項目を絞って検査をすることをお勧めします。

図1 インフルエンザウィルスの構造

検査をするにあたっては、症状の発現時期、その強さの推移とその地域での花粉の飛散情報が参考になります。

図1 インフルエンザウィルスの構造


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IV.アレルギー性鼻炎の治療

まずは抗原(花粉やダニなど)回避が第一です。できる範囲で日常生活において心掛けましょう。環境省のホームページにおいて、花粉のリアルタイムモニターで飛散状況を知ることができますので参考になります。花粉の飛散状況を把握して、回避できる方法を効率よく、無理せずに取り入れましょう。

図1 インフルエンザウィルスの構造

参考までに、カーペット、マットレスなどには、1mあたり1万匹のダニがいることがあります。すべてのダニを除去できなくても、100分の一にすることでアレルギー症状は改善します。

図1 インフルエンザウィルスの構造

ただし適切な除去を行っても、症状がすぐになくなるわけではありません、症状が出にくくなるには4週間ほどかかります。

薬物療法を行うにあたっての各種薬剤の特徴を説明します。

1) ケミカルメディエーター遊離抑制剤
マスト細胞からのケミカルメディエーター(化学伝達物質)遊離を抑制する働きを持っています。粘膜型マスト細胞への作用は弱いため、速効性はなく、継続して使うことで鼻閉にもマイルドですが、効果が期待できます。副作用は少なく、一般的に眠気がでることもありません。
図1 インフルエンザウィルスの構造
2) ケミカルメディエーター受容体拮抗薬
アレルギー性鼻炎の発症メカニズムの最終段階の標的細胞に作用し、ヒスタミン、ロイコトリエンの生理作用を発揮するのを阻止する働きをします。
(1) ヒスタミンH1受容体拮抗薬
第1世代のH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)は速効性があるものの、効果の持続が短く、中枢神経抑制作用、認知能力低下、抗コリン作用による口渇、尿閉、便秘などの症状がでやすいものでした。その後、現在の主流である第2世代の抗ヒスタミン薬が開発され、使われるようになりました。副作用が軽減されて、効果の持続時間も長く、鼻閉にも効果が期待できます。国際ガイドラインでも、第2世代の抗ヒスタミン薬の使用が推奨されています。
図1 インフルエンザウィルスの構造

主な第2世代抗ヒスタミン薬(経口) 追加
    

鎮静作用が最も弱いのが、アレグラで、速効性も期待できます。ジルテックは速効性があることで知られていますし、効果の強さも期待できます。

デザレックスはクラリチンが効果を発揮する際に働く酵素の活性化の必要がないため、個人差が少ない薬剤です。ビラノアは即効性があり、効果の強さも期待できます。ただし食事の影響を受けるので、食前1時間以上前か食後2時間以上して服用する必要があります。

各薬剤の効果には個人差があり、ある種類の抗ヒスタミン薬を2週間以上使用して効果がない場合は、化学構造分類に基づきカテゴリーの違う薬剤を試してみることをお勧めします。

(2) ロイコトリエン受容体拮抗薬
ロイコトリエンは粘膜型マスト細胞から産生される化学伝達物質で、即時相、遅発相における鼻閉症状を引き起こします。ロイコトリエン受容体拮抗薬はその作用を抑えるため、鼻粘膜の容積拡張や血管透過性を抑えることで、鼻閉症状を改善します。その作用は抗ヒスタミン薬よりも強く、効果発現は内服開始1週間ほどで認められて、継続内服することで、鼻閉改善率がアップします。ただし、点鼻ステロイド薬より効果は弱いため、抗ヒスタミン薬と併用して使うことの方が多いです。血小板凝集能を抑制するので、抗血小板剤、抗凝固剤、血栓溶解剤との併用には注意が必要です。
図1 インフルエンザウィルスの構造
(3) プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2受容体拮抗薬
トロンボキサン受容体を遮断することで、鼻粘膜血管拡張や血管透過性を亢進させて鼻閉を改善します。鼻閉に対する効果は抗ヒスタミン薬よりも優れています。鼻閉に対する効果は内服1週間、くしゃみ、鼻漏に対する効果は内服2週間ほどで現れます。その効果は4週以上の長期間継続することで、より強くなります。
3) Th2サイトカイン阻害薬
Th2細胞からのサイトカイン産生を抑制することで、IgE抗体産生抑制、好酸球浸潤抑制、さらにはマスト細胞からのヒスタミン遊離をも抑制する働きがあります。遅発相に働きかけ、鼻閉を改善しますが、単剤で用いるよりも他の薬と併用することでより効果が期待できます。
図1 インフルエンザウィルスの構造
4) 鼻噴霧用ステロイド薬
局所における抗炎症作用が強く、その効果発現も2日程度と早い利点があります。炎症性細胞の浸潤抑制、サイトカインや化学伝達物質の産生抑制、血管透過性亢進の抑制などによって、その作用を発揮します。主に局所で作用し、ナゾネックスの全身移行率は0.1%未満、フルナーゼでも1.8%程度と言われています。1年以上継続して使用しても、全身的副作用は少ないため、今回のガイドラインでは初期療法の1つとして挙げられています。使用にあたっては、頻度は稀ですが局所性副作用としての鼻中隔穿孔を起こさないよう、鼻中隔に直接当たらないようにわずかに外側に向けてスプレーしましょう。
図1 インフルエンザウィルスの構造
5) 点鼻用血管収縮薬・α交感神経刺激剤
鼻粘膜のうっ血、浮腫、結合織増生などによって鼻閉症状が出現します。交感神経刺激剤はうっ血に対して血管収縮作用があり、抗ヒスタミン薬内服では改善しにくい鼻閉に効果を発揮してくれます。ただし、連続して使用しているとその効果持続時間は短くなり、使った後に反跳的にかえって血管が拡張し、粘膜腫脹を招きます。使用する期間は3,4日で十分で、継続しても10日間ぐらいまでにしましょう。また薬局で市販に買える点鼻薬の中にもこの成分が含まれていることがあり、注意が必要です。

鼻閉症状が強い場合、鼻噴霧用ステロイド薬を使う10から30分ほど前に用いることで、鼻粘膜全体に薬がいきわたり、効果がより確実なものになります。症状が改善したら漫然と使用せずに休薬しましょう。
図1 インフルエンザウィルスの構造
6) 漢方薬
証による病態把握、漢方診断のうえ、適した漢方薬を選択します。最も使われるのが小青竜湯で、プラセボを用いた比較対象試験にて有効性が示されています。腹力がやや弱い冷え性の人にはより効果があります。麻黄が含まれているので心臓疾患や血圧のかなり高い人には適していません。麻黄が使えず、体力低下、水滞を認める場合には、苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)を用いることができます。抗ヒスタミン薬と併用することもできるので、眠気を誘発せず、補助的に用いることも可能です。

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X. アレルギー性鼻炎の治療の病型・重症度別の組み合わせ

前記項目で挙げた治療薬をどのように組み合わせて用いるのか、症状やその重症度と時間経過を組み合わせた表を作成しました。患者さんの病状、また花粉の飛沫状況、眠気などの副作用を考慮して、内服、点鼻、点眼薬を選んでいきます。

図1 インフルエンザウィルスの構造

鼻閉症状が強く、内服や点鼻を組み合わせても改善されない場合、下鼻甲介に不可逆的な変化を来していることが考えられます。場合によってはレーザー治療等が必要なことがあり、そのような場合には連携している医療機関の耳鼻咽喉科での治療を受けていただきます。

VI. アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法)

スギ花粉症は、スギ花粉がアレルゲン(抗原)と呼ばれる原因物質となって引き起こされます。そのアレルゲン(抗原)をごく少量から投与を開始して、投与を繰り返すことでアレルギー症状がでやすい体質を改善していく根本的な治療法です。

1) アレルゲン免疫療法の機序
アレルゲン(抗原)を少量ずつ負荷していくことで体内の免疫システムに変化をもたらしていきます。
アレルギー症状発現を抑制する免疫療法の機序
アレルギー症状を出しやすくなっているヘルパーT細胞(Th1細胞とTh2細胞)のバランスを正常化します。アレルギー症状の原因であるヒスタミン遊離に関与するIgE抗体を減らし、アレルギー反応を阻止する役割を担うIgG4抗体やIgA抗体を増やすことで,症状を緩和していくと考えられています。
免疫療法によるQOL(quality of life)の改善度
すでに100年の歴史をもつ皮下免疫療法と比較しても、その効果は劣りません。2016年鼻アレルギー診療ガイドラインにも記載されていますが、8割前後の患者さんにその有効性が認められ、根本的な体質改善(長期寛解・治癒)を望む患者さんにはお勧めします。
さらに原因となるアレルギー症状を改善するだけではなく、将来、他のアレルギー症状がでてくる体質を抑え、予防にもつながる効果も指摘されています。
スギ花粉症の診断
花粉の飛散していない時期に治療を開始しなければなりませんので、問診と特異的IgE抗体検査は重要になります。
診断がつきましたら治療の開始となりますが、治療が安全に効果を発揮するためには受ける側にも以下のような条件があります。
舌下免疫療法(シダトレン)の対象者
しっかりと毎日、そして2年以上(3年から5年を推奨)治療を継続できることが重要です。また副作用発症時の治療で難渋が予想される場合や免疫が誘導されにくいケースでは舌下免疫療法を行うことができません。
舌下免疫療法(シダトレン)を行えないケース
3) 治療の流れ
開始時期は花粉が飛散していない時期に行います。処方後の初回、第1日目はクリニック内で薬錠の舌下を行います。アレルゲンの入った錠剤(溶けてその唾液)を1分間舌下に保持し、その後飲み込みます。そして5分間はうがいや飲食を控えます。アナフィラキシーなどの重篤な副作用は初回投与、30分以内に起こると言われているため、投与後30分はクリニック内で様子を観察いたします。その後は以下のようなスケジュールに沿ってご自宅で治療を継続していきます。毎日行うため、ご自身の食事や仕事の時間を考えて、あらかじめ薬を舌下する時間を決めておきましょう。
舌下免疫療法(シダトレン)服用方法
服用時の注意
もしご自宅で服用法を間違えてしまったら、慌てずに対応しましょう。
服用を間違えてしまったら!
自己判断で中断したり、まとめて服用するなどの行為は控えて、わからないときは医師に相談しましょう。
4) 副作用
最も重篤な副作用はアナフィラキシーショックですが、皮下免疫療法と比較して起こりにくいことが判っています。ただし、起きる可能性は否定できませんので、初回投与はクリニック内で行ってもらいます。頻度が高いものは投与部位である口腔内の腫れやかゆみなどの症状です。口腔内症状などは治療開始1か月間やスギ花粉飛散期に出やすい傾向があります。
主な副作用
口腔内症状が数時間しても軽快しない場合には受診してください。診察の上、かゆみや腫れを抑える薬などを処方いたします。

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かがやきクリニック川口

〒332-0034
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